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猫の「食べない」が命の危険に?|肝リピドーシスのリスクと予防法

倉敷市、岡山市、総社市、浅口市、玉野市、早島町の皆さんこんにちは。

岡山県倉敷市の倉敷動物愛護病院の院長垣野です。

 

愛猫が急にご飯を食べなくなると、心配になりますよね。

「少し様子を見よう」と思いがちですが、猫の食欲不振は命に関わる重大な病気につながることもあります。その代表例が肝リピドーシス(脂肪肝)です。

 

肝リピドーシスは、特に食欲不振が続いた猫に起こりやすい病気です。この病気では、肝臓に脂肪が過剰に蓄積し、肝臓の機能が低下してしまいます。

肝リピドーシスが発症すると、放置すれば命の危険を伴う可能性がありますが、早めに異変に気づき治療を始めることで、健康を取り戻すことができます。

 

今回は、猫が食事を摂らなくなることの危険性や、肝リピドーシスのメカニズム、症状について詳しく解説します。

■目次
1.なぜ食べないことが危険なのか?
2.食欲不振から起こる症状の進行
3.早期発見のためのチェックポイント
4.診断方法
5.治療方法
6.予防法や日常での注意点について
7.まとめ

 

なぜ食べないことが危険なのか?


猫がご飯を食べない状態が続くと、命に関わる病気である肝リピドーシスを引き起こす可能性があります。これは、猫の肝臓が脂肪をエネルギーとして代謝する能力に限りがあるという特性に関係しています。

 

食事から十分なエネルギーが供給されないと、猫の体は体内の脂肪を動員してエネルギーを補おうとします。

しかし、この過程で肝臓に脂肪が運ばれすぎてしまうと、肝臓が処理しきれず、肝細胞に脂肪が蓄積します。その結果、肝臓の機能が低下し、深刻な状態に陥るのです。

 

食欲不振についてはこちらから

 

特に肥満の猫は、肝臓に脂肪が蓄積するスピードが速いため、肝リピドーシスのリスクが高まります。

 

また、次のようなストレスがきっかけで食欲不振に陥ることもあります。

 

引っ越しや家族構成の変化

新しいペットや家族が増えた

環境の急激な変化

 

これらの要因が重なることで、症状が急激に進行することがあります。そのため、猫が食べなくなった際には、原因を特定し、速やかに対処することが重要です。

 

食欲不振から起こる症状の進行


猫の食欲不振が1〜2日続くと、まず体重の減少が見られることがあります。この段階では、元気がないぐったりしているなどの軽い症状が現れることがあります。

また、嘔吐や下痢といった消化器症状が見られることもありますが、見過ごされることが多いので注意が必要です。

 

食欲不振がさらに続くと、以下のような深刻な症状が現れます。

 

黄疸(目や皮膚が黄色くなる)

脱水症状

元気消失や無気力

呼吸が速くなる

 

肝臓の機能が低下すると、体内の毒素が排出されにくくなり、全身に悪影響を及ぼします。症状がさらに進行すると、ふらつきや痙攣といった神経症状が現れることもあります。

 

肝リピドーシスは、早期治療がカギとなります。症状が進行する前に動物病院で診察を受け、適切な治療を開始することで、回復の可能性を大きく高めることができます。

ただし、治療には時間がかかることが多く、強制給餌や点滴のようなケアが必要になる場合があります。

 

早期発見のためのチェックポイント


肝リピドーシスは、初期段階で発見して迅速に対応することで予後を大きく改善することができます。普段から愛猫の様子を注意深く観察することが何より大切です。以下のポイントを参考に、日常の健康チェックを行いましょう。

 

<普段の食事量の変化>

食事量の減少:いつもの食事量より少ない、または全く食べない状態が続いていないか確認しましょう。

水分摂取量の変化:水を飲む量が減少している場合も注意が必要です。

 

<様子や行動の変化>

・ぐったりして元気がない、活動的でなくなる。

・遊びへの興味を失い、隠れがちな行動を取るようになる。

・嘔吐や下痢が見られる。

 

<要注意のサイン>

黄疸:目の白目部分や口の中が黄色くなる。

急激な体重減少:短期間で体重が大きく減る。

呼吸の異常:呼吸が浅く速い状態になる。

 

診断方法


動物病院では以下の診断を組み合わせることで、肝リピドーシスであるかどうかを正確に判断します。

身体検査:肝臓の腫れや黄疸の有無を確認します。

血液検査:肝臓の酵素値や胆汁酸の数値を測定し、肝臓の機能を評価します。血液検査は肝リピドーシスの診断に欠かせない方法です。

超音波検査:肝臓の大きさや脂肪の蓄積状態を確認します。

細胞診または生検:必要に応じて、肝臓の細胞を採取して精密検査を行います。

 

治療方法


肝リピドーシスの治療の目的は、肝臓の機能をサポートしながら症状を安定させ、愛猫が回復に向かう環境を整えることです。

 

<栄養補給>

肝リピドーシスの治療で最も重要なのは、適切な栄養補給です。

愛猫が自分で食べることが難しい場合、強制給餌や胃ろうチューブを使って栄養を補います。これにより、エネルギー不足を防ぎ、肝臓の機能回復を促進します。

栄養補給には、高エネルギーかつ低脂肪の特別食が推奨されることが多いです。

 

<点滴療法>

治療の一環として、点滴を行うことがあります。これにより、脱水症状を改善し、体内の電解質バランスを整えることができます。特に重度の脱水や食事が全く取れない場合に有効です。

 

<薬物治療>

必要に応じて、肝臓を保護する薬剤が使用されます。また、2次感染が確認された場合には、抗生物質の投与を行い、感染症の治療も同時に進めます。

 

<長期的なケア>

肝臓の回復には時間がかかるため、ご自宅での継続的な治療とケアが重要になります。飼い主様には、以下のようなサポートをお願いすることがあります。

 

適切な栄養補給を行う(強制給餌や特別食の提供など)。

・獣医師の指導のもとで、薬をきちんと投与する。

 

回復には根気が必要ですが、飼い主様の愛情とサポートが愛猫の回復を大きく助けます。困ったことや不安があれば、いつでも動物病院に相談してください。

 

予防法や日常での注意点について


肝リピドーシスを予防するには、日頃からの体調管理が重要です。以下のポイントを参考に、愛猫の健康をサポートしましょう。

 

<適切な食事管理>

・定期的な食事時間を守り、猫が食べやすい環境を整えましょう。

 

・急激な食事の変更は避け、変更が必要な場合は徐々に進めてください。

 

・肥満は肝リピドーシスのリスクを高めるため、適切な体重管理が重要です。

肥満対策についてはこちらから

 

<ストレスの軽減>

・引っ越しや新しい家族の増加など、生活環境の変化には注意が必要です。

 

・新しい環境に慣れるまでの間は、猫が安心できる隠れ場所を用意しましょう。

 

・多頭飼いの場合は、各猫が安心して食事できるよう、個別の食事スペースを設けるとストレスを軽減できます。

 

<日常的な健康観察>

・毎日の食事量や水分摂取量を確認し、記録をつけておくと異変に気づきやすくなります。

 

・体重を定期的に測り、急な増減がないかチェックしましょう。

 

<定期健診の活用>

・健康診断は年に1回を目安に受けることが基本です。特に高齢猫や肥満の猫には、半年ごとの検診をおすすめします。

 

・健診時に血液検査や超音波検査を追加することで、肝臓の健康状態を詳しくチェックできます。

 

まとめ


猫の肝リピドーシスは、「少し食欲がないだけ」と見過ごしてしまうと、命に関わる病気です。愛猫の健康を守るためには、飼い主様の日々のケアや意識がとても重要です。

 

もし気になる症状がある場合や、健康維持についてアドバイスが必要な場合は、ぜひ当院にご相談ください。飼い主様と愛猫が安心して過ごせるよう、全力でサポートいたします。

 

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